先つ頃、 雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、例の人よりはこよなう
年老い、 うたてげなる翁二人、 嫗といきあひて、同じ所に居ぬめり。
あはれに、 同じやうなるもののさまかなと見はべりしに、
これらうち笑ひ、見かはしていふやう、
世継 「年頃、 昔の人に対面して、 いかで世の中の見聞くことをも
聞えあはせむ、 このただいまの入道殿下の御有様をも申しあはせばや
と思ふに、 あはれにうれしくも会ひまうしたるかな。 今ぞ
心やすく黄泉路もまかるべき。 おぼしきこといはぬは、
げにぞ腹ふくるる心地しける。かかればこそ、 昔の人はものいはまほしく
なれば、 穴を掘りてはいひ入れはべりけめとおぼえはべり。
かへすがへすうれしく対面したるかな。 さてもいくつにかなりたまひぬる」
といへば、 いま一人の翁...
先つ頃: さいつごろ 雲林院: うりんゐん 菩提講: ぼだいこう
詣でて侍りしかば: まうでてはべりしかば 例: れい 翁: おきな
嫗: おうな 居ぬ: ゐぬ 年頃: としごろ 対面: たいめ
聞え: きこえ 入道殿下: にふだうでんか 有様: ありさま
黄泉路: よみぢ 心地: ここち 対面: たいめ
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