Mumyozoshi

無名草子

 



八十余り三年の春秋、 いたづらにて過ぎぬることを思へば、 いと悲しく、

たまたま人と生まれたる思ひ出でに、 後の世の形見にすばかりのことなくて

やみなむ悲しさに、 髪を剃り、衣を染めて、 わづかに姿ばかりは

道に入りぬれど、 心はただそのかみに変はることなし。


八十: やそぢ 三年: みとせ 思ひ出:おもひで 後の世:のちのよ

形見:かたみ 剃り:そり 衣:ころも


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