いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひたまひける中に、
いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。
はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、めざましきものに
おとしめそねみたまふ。同じほど、それより下臈の更衣たちは、
ましてやすからず。朝夕の宮仕につけても、人の心をのみ動かし、
恨みを負ふつもりにやありけん、いとあつしくなりゆき、もの心細げに
里がちなるを、いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人のそしりをも
え憚らせたまはず、世の例にもなりぬべき御もてなしなり。
上達部上人なども、あいなく目を側めつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。
唐土にも、かかる事の起りにこそ、世も乱れあしかりけれと、やうやう、
天の下にも、あぢきなう人のもてなやみぐさになりて、
楊貴妃の例も引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、
かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにて交じらひたまふ。
女御更衣: にょうごかうい 中: なか 際: きは 方々: かたがた
下臈: げらふ 朝夕: あさゆふ 宮仕: みやづかへ 里: さと
憚ら: はばから 思ほし: おもほし 例:ためし
上達部上人: かむだちめうえびと 側: そば 唐土: もろこし
天の下: あめのした 楊貴妃の例: やうきひのためし 出で: いで
御心: みこころ 交じらひ: まじらひ
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